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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)7544号 判決 1975年8月11日

原告

牧嶋八重

右訴訟代理人

長谷雄幸久

外一名

被告

牧嶋澄雄

右訴訟代理人

池内省三

外一名

被告

株式会社青山鉄工所

右代表者

青山四郎

外一名

右二名訴訟代理人

堀場弘義

外一名

被告

大野金四郎

右訴訟代理人

和泉久

外一名

被告

松下昌子

右訴訟代理人

松尾公善

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

(主位的請求)

1(一) 原告と被告牧嶋澄雄(以下「被告澄雄」という。)との間において、原告が別紙物件目録記載の各土地について二分の一の共有持分を有することを確認する。

(二) 原告と被告株式会社青山鉄工所(以下「被告青山鉄工所」という。)および被告青山四郎との間において、原告が別紙物件目録一および四記載の各土地について二分の一の共有持分を有することを確認する。

(三) 原告と被告大野金四郎(以下「被告大野」という。)との間において、原告が別紙物件目録二および三記載の各土地について二分の一の共有持分を有することを確認する。

(四) 原告と被告松下昌子(以下「被告松下」という。)との間において、原告が別紙物件目録五記載の土地について二分の一の共有持分を有することを確認する。

2(一) 被告青山鉄工所および同青山四郎は、原告に対し、別紙物件目録一記載の土地につきなされた別紙登記目録1の登記および物件目録四記載の土地につきなされた登記目録4の登記についてそれぞれ原告の共有持分を二分の一とする旨の更正登記手続をせよ。

(二) 被告大野は、原告に対し、別紙物件目録二記載の土地につきなされた別紙登記目録2の登記および物件目録三記載の土地につきなされた登記目録3の登記についてそれぞれ、原告の共有持分を二分の一とする旨の更正登記手続をせよ。

(三) 被告松下は、原告に対し、別紙物件目録五記載の土地につきなされた別紙登記目録5の登記について、原告の共有持分を二分の一とする旨の更正登記手続をせよ。

3 訴訟費用は、被告らの負担とする。

(副位的請求)

1 被告澄雄は、原告に対し、金二、五七一万九、三二〇円およびこれに対する昭和四一年五月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、被告澄雄の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二  当事者の主張

一、請求の原因

1  主位的請求について

(一) 訴外牧嶋澄之助(以下「澄之助」という。)は、昭和二〇年一一月二五日死亡したが、同人は、同年一〇月八日、公正証書によつて、その所有する全財産の二分の一を原告に遺贈する旨、遺言執行者を訴外真板一忠に指定する旨の遺言をした。

(二) 澄之助は、死亡当時、別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)を所有し、本件各土地は遺産に属していた。

(三) したがつて、原告は、澄之助の死亡と同時に本件各土地につき二分の一の共有持分を取得し、澄之助の長男で家督相続人である被告澄雄はその余の二分の一の共有持分を取得するにとどまつた。

(四) しかるに、

(1) 被告澄雄は、本件一ないし三の各土地につき昭和二五年三月一三日に、同四および五の各土地につき同四一年五月四日に、それぞれ同二〇年一一月二五日家督相続を原因とする所有権移転登記を経由した。

(2) 被告青山鉄工所および同青山四郎は、本件一の土地につき、昭和四四年七月一四日、被告澄雄から同四四年五月二六日代物弁済を原因とし、各持分を二分の一とする別紙登記目録1の所有権移転登記を経由した。

(3) 被告大野は、本件二および三の各土地につき、昭和四四年六月一六日、被告澄雄から、同四〇年四月三日交換を原因として別紙登記目録2、3の所有権移転登記を経由した。

(4) 被告青山鉄工所および同青山四郎は、訴外井口浦次(以下「井口」という。)において昭和四一年五月一三日に被告澄雄から代物弁済を原因として所有権移転登記を経由していた本件四の土地につき、同四四年五月二八日、井口から、同月二六日売買を原因とし、各持分を二分の一とする別紙登記目録4の所有権移転登記を経由した。

(5) 被告松下は、井口において、昭和四一年五月一三に日、被告澄雄から、代物弁済を原因として所有権移転登記を経由していた本件五の土地につき、同四二年一月一二日、井口から、同日売買を原因として別紙登記目録5の所有権移転登記を経由した。

(五) よつて、原告は、本件各土地につき有する二分の一の共有持分権に基づき、被告澄雄に対しては、右共有持分の確認を、その余の被告らに対しては、それぞれ請求の趣旨記載の各共有持分の確認と更正登記手続を求める。

2  副位的請求について

(一) 1(一)ないし(三)と同旨。

(二) しかるに、被告澄雄は、原告が本件各土地について二分の一の共有持分を取得した事実を知りながら、1(四)(1)記載のとおり原告に無断で自己の単独所有名義の相続登記をしたうえ、同(2)ないし(5)記載の各所有権移転登記手続をした。

(三) その結果、原告は、本件各土地についての二分の一の共有持分を失い、少くとも金二五七一万九三二〇円の損害を蒙つた。

(四) よつて、原告は、被告澄雄に対し、右不法行為に基づく損害金二五七一万九三二〇円および内金二二八二万三八八〇円については昭和二五年三月一三日(一ないし三の土地についての不法行為成立の日)以降、内金二八八万四四〇円については同四一年五月四日(四、五の土地についての不法行為成立の日)以降支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否<省略>

三、抗弁(請求原因1に対して)

1  (被告ら)

(一) 家督相続人である被告澄雄と包括受遺者である原告との間で、昭和二一年三月ころ、亡澄之助の相続財産について遺産分割の協議が成立し、右協議の結果、被告澄雄が本件各土地を相続し、その所有権を取得した。

(二) 仮にそうでないとしても、原告は、本件各土地に対する二分の一の共有持分を、澄之助の包括遺贈によつて取得したのであるから、その権利の確認ないし取戻しを求める原告の本訴請求は相続回復請求権を行使するものであるところ、右請求権は、相続開始後二〇年の経過によつて、即ち、昭和四〇年一一月二五日の経過とともに、時効により消滅した。

2  (被告澄雄を除くその余の被告ら)

仮に、右被告らが相続回復請求権の消滅時効を独立に援用することができないとすれば、被告澄雄との関係で原告の相続回復請求権が消滅した旨の被告澄雄の主張を援用する。<以下省略>

理由

第一主位的請求について

一請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

二相続回復請求権の時効消滅について

被告らは、抗弁として、本件各土地については、原告が共有持分を取得した後、原告と被告澄雄との間に遺産分割協議が成立し、原告はその主張の共有持分を失つた旨の主張をするが、その点の判断はひとまずおき、被告ら主張の相続回復請求権の時効消滅の抗弁につき判断する。

右の争いのない事実関係によれば、本件の相続は、旧民法(昭和二二年法律二二二号による改正前、以下「旧法」という。)の適用を受けるのであるが、旧法のもとにおける包括受遺者は、遺産相続人と同一の権利、義務を有するものである(旧法一〇九二条)から、原告の場合は、旧法九九三条、九六六条による遺産相続回復請求権の適用の可否を論ずべきものである。

しかるところ、原告は、本訴請求は、所有権に基づき物権的請求権を行使するものであつて、相続回復請求権を行使するものではないと主張する。しかしながら、民法が相続回復請求権に関し時効の制度を特に設けた理由が、相続に関する争いを短期間に収束させて、相続関係を安定させようとする点にあることにかんがみれば、相続権の存否に関する争いを前提とし、自己に相続権があることを主張し、遺産に属する物件に対する侵害の回復を求める訴訟上の請求は、すべて相続回復請求権を行使する場合にあたると解するのが相当であり、被告澄雄に対する場合のように、本件各土地ついて登記請求権を行使するなど給付を求めることなく、相続財産について権利範囲の確認を求めるにとどまる場合もまた右の回復請求権の行使というを妨げない。けだし、原告は、その主張によれば被告澄雄に対しても他の被告に対すると同様に本件各土地について更正登記を求めうる筋合であるが、本訴では、あえてその前提となる権利関係の確認を求めるにとどまるのであつて、相続を理由とする限り、このような基本たる権利関係の確認請求をそれから生ずる給付請求から区別して考える理由はないからである。

そして、被告澄雄と原告との間は、あたかも共同相続人と同様の関係にあるのであるが、共同相続人間において、その一人が単独相続の登記をした他の相続人に対し、自己の相続権を主張することもまた自己の持分の主張の限度では右相続回復請求権の主張であり、民法の定める時効の適用があると解すべきである。

つぎに、被告澄雄を除くその余の被告らのように遺産の転得者である者が相続回復請求権の行使の相手方となり、これらの者が右請求権の消滅時効を援用しうるかについても、旧法の下における家督相続回復請求については、家督相続人の地位のもつ特異性からしてこれを別異に解する余地があるとしても、遺産相続回復請求のように財産回復のみを目的として相続権が主張される場合は、ひつきよう相続によつて取得した個々の財産権の内容を実現することのみに意味があるのであつて、しかも相続回復請求権なるものは、個々の財産に対する請求権を総称するものと解するのが相当であるから、その相手方を表見ないし僣称相続人に限定しなければならない理由を見出しえない。これを実質的にみても、目的物件が表見ないし僣称相続人のもとにある場合には、その取戻ができなくなつたにもかかわらず、これを第三者たる特定承継人が取得したときは、再び権利の回復が可能となるような解釈をすることは不合理であるといわなければならないのである。したがつて、表見ないし僣称相続人からの目的物件の特定承継人もまた直接の相手方として、相続回復請求権の時効消滅につき、固有の援用権を有するものと解するのが相当である。

以上の見地に立つて本件をみるに、被告澄雄は、本件各土地につき、被相続人亡澄之助の遺言によつていつたん原告に帰属した共有持分二分の一を含む全部について、家督相続を原因とする所有権移転登記を経由したのであるから、原告の主張どうりであるとするならば、同被告は、二分の一の持分をこえる限度においては僣称相続人にあたるものであり、したがつてまた、その余の被告らは、これらの持分について僣称相続人からの特定承継人にあたるものであつて、いずれも原告に対し相続回復請求権の消滅時効を援用しうるのであるが、訴外澄之助が死亡し、原告につき遺贈の効力が生じた日は、昭和二〇年一一月二五日であるから、原告の有する相続回復請求権は、その後二〇年(旧法九九三条、九六六条)を経過した同四〇年一一月二五日をもつてその消滅時効が完成し、原告の相続回復請求権は、時効によつて消滅したものといわなければならない。

三してみれば、原告の主位的請求は、原告と被告澄雄間に遺産分割の協議が成立しなかつたとしても、またその余の主張につき判断を加えるまでもなく、理由がないことが明らかである。

第二副位的請求について

一請求の原因2(一)および(二)の事実は、当事者間に争いがない。

二しかしながら、右に主位的請求について判断したとおり、原告の被告澄雄に対する相続回復請求権は、二〇年の時効により消滅したのであるから、原告は、時効完成の効力により、遺贈の効力を生じた日に遡つて本件各土地に対する二分の一の共有持分権を失つたものといわなければならず、したがつて、仮に遺産分割の協議が成立しなかつたとしても、被告澄雄が当初から全部を単独に相続しその所有権を取得していたこととして取扱われることになるのであるから、同被告が、本件各土地の全部につき家督相続登記をなし、またこれをその余の被告らを含む第三者に処分したからといつて、原告との関係で不法行為が成立する余地はないのである。

三したがつて、原告の副位的請求もまた、その余の点につき判断を加えるまでもなく理由がない。

第三結論

以上の次第で、原告の被告らに対する本訴各請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(吉井直昭 福富昌昭 田中豊)

物件目録、登記目録<省略>

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